『KAGEROU』(齋藤智裕/ポプラ社) [現代小説]
気になるところは多々あるけれど、酷評するほどのものでもないだろうとは思う。
(ただし、はっきり言えるのは、大賞受賞レベルではない。佳作とか奨励賞とかは、賞によってはありえるかもしれないが)
やりだまに挙げられている親父ギャグだって意味はあるし。
初版だけとか言われている、最後の訂正シールの部分。
あれを編集がゲラの段階で気付かないってのはおかしい。
意図的にやったでしょ、これ。
それなら、「訂正シール」なんて言い方しなければ良かったのにとは思う。
とりあえず、誰が書いたとか関係なく、作品読んで、どうだったか判断すれば良いと思うのだけれども。
と、中身の話は基本なしの方向で。
『ジョナさん』(片川優子/講談社文庫) [現代小説]
毎週日曜、死んだおじいちゃんの愛犬と公園へ行く。これが高校2年、チャコの習慣だ。しかしのどかな風景とは裏腹に頭の中は悩みでいっぱい。大学受験、親友との大喧嘩、そしてバラバラな家族。青春まっただ中って感じだけど当人は息苦しいことこの上ない。そしてさらにチャコは出逢ってしまう――恋に。(講談社公式サイトより)
片川さんが『佐藤さん』を書いたのは中学3年生の時(受賞作刊行が高校1年の時だったかな)で、この『ジョナさん』が高校2年生の時。
デビューから結構経っているのに、まだ現役の大学生っていうのにいつも驚かされる……。
恋、進路、友情、家族といったような、高校2年生の主人公・チャコが抱える悩みが描かれている。
最初のうちは、恋の悩みだけを描いた恋愛小説なのかなと思ったら、そんなことはなく、先に書いたように、高校2年生の子が抱えていたもおかしくないような、さまざまな悩み、そして、それに対する葛藤が丁寧に描かれていて好感触。
著者と作中の主人公が同年齢だからこそ描けたのであろう部分(心情)もあれば、本当に高校2年生が描いたのかと驚かせる部分もあり、デビュー作の『佐藤さん』より断然うまくなっていると実感できる一冊。
Web連載していた『クロワッサン』が、この『ジョナさん』の続編だったことを解説読んで、今さらながらに知る……。
『八月の路上に捨てる』(伊藤たかみ/文藝春秋) [現代小説]
最新の芥川賞受賞作。
何箇所か上手いかもと思わせてくれる描写があったものの、総じて、う~んと思ってしまう箇所が目立つ。
登場人物の立ち位置・関係などの設定に関しては若干の評価ができるものの、結局のところ何を描きたいのか、何を描いているのか、わかりそうでわからない(読み込もうにも判然としない)。
自分の読解力の問題なのか、それとも作品が問題なのか(明らかに、自分の読解力ではこの作品は読み込むことができないと思わせてくれるすごい作品も存在するのに)、そう思わせる作品が最近、多いような気がする。
この作品もその例に洩れない。
なんとも煮えきれないまま読了。
『われら猫の子』(星野智幸/講談社) [現代小説]
星野さんの新刊で、かつ初の短編集。
2000年から2006年の間に文芸誌等に掲載された短編、11編をまとめたもの。
97年デビューなので来年作家生活10年を迎える方なわけですが、本書には、その作家生活の半分以上(約7年間)の間に書かれたものが発表順にまとめてある。
なので、星野さんの成長というか、正確には変化というものを俯瞰するのに非常に適している。
前半収録の作品は、確かに初期作品に通ずるものが比較的顕著に見て取ることができるし、後半の作品になれば、最近よく扱っているテーマというのも見て取ることができる。
(ちなみに、星野さんのサッカー好きは、どの時期のを読んでもよくわかる)
どういう風な変遷を辿っているか、問題意識・テーマがどのように変化していたのかはわかるが、どの作品を読んでも、この人は文学が好き、もしくは文学を信じているのだなと感じさせてくれる。
それが、どんなに変化しても、変わることのない星野智幸という作家の根幹なのかと感じた。
補足として。
印象の問題ではあるけれど、初期は特に「言葉」というものに作品の肝をぶつけていたように感じるが、最近の作品では、「言葉」というある種可視性のあるものから、「空気」とでも言い表すのか、不可視性のものへと、その対象が変化しているように感じた。
『超・ハーモニー』(魚住直子/講談社) [現代小説]
『空色の地図』(梨屋アリエ/金の星社) [現代小説]
密かに注目している作家の一人、梨屋さんの本。
中学3年生の初音のもとに、8歳の時の自分から未来の自分へ宛てた手紙が届いた。
友達のことや、進学(家庭)のことで、悩んでいた初音。
6年前の親友、美凪。
美凪との再会で、物語は動き出す。
毎度のように主人公は14歳。
梨屋さんは、本当に14歳を描くのがうまい。
それと、『プラネタリウム』シリーズのような、ちょっとファンタジーちっくな設定の話ではないのだけれども、それでも表現・描写から著者の感性を十分に実感できる作品だと思う。
『青少年読書感想文全国コンクール』の中学校の部の課題図書になっているのだけれど、その理由も納得。
ただ、そういう課題図書になっているからと言って、かたくもなく、ましてや説教臭くもない。
素直に良い・おもしろいと言える物語。
『透きとおった糸をのばして』(草野たき/講談社) [現代小説]
第四十回講談社児童文学新人賞受賞作の文庫化。
「不思議な本だ」
と解説であさのあつこさんが述べているのだけれども、本当に、この本は不思議だ。
読了直前、このブログでどう紹介しようか考えた時に、非常に困った。
そして、解説を読み、「不思議な本だ」という表現は、確かにこの作品にぴったりの言葉だと思った。
あらすじっぽく書くならば
中学二年生の香緒が、親友のちなみとの関係で悩む中、同居している従姉・知里の友人・るう子が、二人の住む家(部屋)に転がり込んでくる。
それぞれの人間模様と、三人の人間関係・悩みを描いた作品と言っても間違いはないはずだ。
ただ、あらすじっぽいことを書いても、この作品の良さはなかなか伝えられない。
話の流れや展開とは別のところに、この作品の良さがあるから。
読後の感想として。
タイトルの持つ意味、そして、描かれているそれぞれの人間関係が重なるにもかかわらず、完全に重なることはないという、この二点が非常に興味深かった。
「上手いなぁ」といったような手法の問題ではなくて、著者の感性が「きれいだなぁ」とか、そういう感覚(説明になってないか)。
良い作家さんとの新たな出会いの瞬間というのは、本当に楽しくもあり嬉しくもある瞬間だなと久々に実感した一冊。
『しずかな日々』(椰月美智子/講談社) [現代小説]
小学校五年生のえだいちこと、枝田。
彼は、母親と二人暮しをしているおとなしい少年だった。
だが、クラスメートの押野との出会いで、彼の世界は広がっていく。
そして、母親の転職がきっかけで、転校することを嫌った彼は、ずっと会っていなかったお祖父さんと二人で暮らすことに。
そこで、彼の世界はさらに広がっていく。
感想として。
主人公・えだいちの心理描写が非常にうまい。
言葉に出来ない感情に対して的確な言葉を当てはめていくのではなく、言葉にできない感情があるということを非常にうまく表現している。
そして、その表現がうまいがゆえに、ラストの一文がすとんと心に落ちてくる。
タイトルの『しずかな日々』。途中までは若干の違和感を覚えていたけれど、最後まで読めば、このタイトルもすとんと落ちてくる。
淡々としているわけでもなく、ましてや激しいわけでもない。
けれど、「しずかで」あるにも関わらず、「力強さ」を感じさせてくれる作品。
著者は児童文学新人賞受賞作家。